
増資したお金は全額「資本金」にしなくてもよい
株式会社が新株発行によって1,000万円の払込みを受けたからといって、必ず1,000万円すべてを資本金にしなければならないわけではありません。
会社法第445条では、株式発行時に払い込まれた額について、2分の1を超えない額を資本金として計上しないことができ、その資本金にしなかった部分は資本準備金として計上することとされています。
つまり1,000万円の払込みなら、最大500万円までを資本金に計上せず、資本準備金とすることができます。
例:1,000万円を半分ずつ計上
- 払込金額:1,000万円
- 資本金:500万円
- 資本準備金:500万円
もちろん、1,000万円全額を資本金とすることも可能です。一方、100万円だけを資本金、900万円を資本準備金にすることは、通常の株式発行では「資本金に計上しない額が払込額の2分の1を超える」ためできません。
資本金と資本準備金の違い
資本金は登記事項であり、会社の資本規模を表す重要な項目です。
資本準備金は純資産の一部であり、株主から拠出された金額のうち会社法上のルールに従って資本金としなかった金額などが計上されます。
資本金と資本準備金はどちらも、通常の売上や営業利益とは性質が異なります。また、資本準備金は利益剰余金とも異なります。
| 項目 | 主な意味 |
|---|---|
| 資本金 | 株主からの出資等を基礎として計上される会社法上の資本金 |
| 資本準備金 | 払込額のうち資本金としなかった部分などを計上する準備金 |
| 利益剰余金 | 事業活動などで生じた利益の蓄積を中心とする純資産項目 |
増資の仕訳|現金1,000万円を払い込んでもらった場合
実際の会計処理は取引条件によって異なりますが、基本的なイメージは次のとおりです。
1,000万円全額を資本金とする場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 10,000,000円 | 資本金 | 10,000,000円 |
500万円を資本金、500万円を資本準備金とする場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 10,000,000円 | 資本金 | 5,000,000円 |
| 資本準備金 | 5,000,000円 |
株式発行に伴う手数料などが発生した場合は別途会計処理が必要になるため、上記は増資本体だけを単純化した例です。
利益剰余金を使って増資できる?
できます。会社法第450条では、株式会社は剰余金の額を減少させて資本金の額を増加させることができます。
たとえば、会社内に蓄積されているその他利益剰余金など、会社法上の剰余金を一定の手続きによって資本金へ組み入れることが可能です。
この場合、外部の投資家から現金を受け取るわけではありません。
たとえば純資産の中で、その他利益剰余金1,000万円を減少させ、資本金を1,000万円増やしたとしても、単純化すれば純資産の合計額そのものは変わりません。
新株発行による増資との違い
- 新株発行:外部から新たな資金が入ることがある
- 剰余金の資本組入れ:社内の純資産項目を振り替えるため、新しい資金は入らない
この違いは、企業の増資発表を見る際にも重要です。「資本金が増える」という結果だけを見ず、その原因が新株発行なのか、内部項目の振替なのかを確認しましょう。
増資すると税金はかかる?会社側の基本的な考え方
株主から株式の払込みとして受け入れた資金は、商品の販売による売上とは異なる資本取引です。そのため、単純に「増資で1,000万円受け取ったから、1,000万円が法人税の課税売上・利益になる」という処理ではありません。
一方、増資に伴う商業登記には登録免許税がかかります。前述のとおり、通常の株式会社・合同会社の資本金増加登記では、原則として増加した資本金額の0.7%、最低3万円です。
また、資本金の額は法人税・地方税をはじめ各種制度の適用判定に関係する場合があります。増資額が大きい会社では、単純に登記費用だけを見るのではなく、増資後の税務上の位置付けまで確認することが重要です。
既存株主は増資だけで確定申告が必要?
会社が増資したという事実だけを理由として、既存の個人株主全員に確定申告義務が発生するわけではありません。
通常、既存株主が単に株式を保有し続けているだけであれば、会社が新株発行を実施したことそのものについて株式譲渡益が発生するわけではありません。
株主割当によって新株を取得し、代金を払い込んだ場合には、将来その株式を売却するときの取得費計算が重要になります。国税庁は、同一種類の株式を株主割当てで取得した場合について、旧株と新株を合わせた1株当たり取得価額の調整方法を示しています。
一方、無償で株式・新株予約権を取得する場合や、著しく有利な条件による発行、法人株主が取得する場合などは税務上の扱いが異なることがあります。
増資に関連する税金は、発行方法、株主の属性、取得価格、売却の有無などによって変わるため、個別案件では税理士や税務署への確認が適切です。
増資を英語でいうと?
増資そのものは英語でcapital increaseと表現できます。「資本金を増やす」という意味では「increase capital」などの表現も使われます。
ただし、具体的な資金調達方法によって英語表現は変わります。
- 増資:capital increase
- 公募:public offering
- 追加の株式公募:follow-on offering
- 第三者割当:third-party allotment
- 新株発行:issuance of new shares / new share issuance
- 株主割当:shareholder allotment など
日本の制度名称と海外の資本市場用語は必ずしも完全に一対一で対応するわけではないため、契約書や開示資料では対象となる取引内容に合わせて表現する必要があります。
投資家が増資発表を見たときのチェックポイント
上場企業の増資が発表されたときは、「増資だから悪材料」「増資だから買い」と機械的に判断せず、少なくとも次の項目を確認すると内容を理解しやすくなります。
- 増資の方法:公募、第三者割当、株主割当などのどれか
- 調達金額:企業規模に対してどの程度か
- 新株発行数:現在の発行済株式数と比べてどの程度増えるか
- 希薄化率:既存株主への影響はどの程度か
- 発行価格:市場株価に対してどの程度の水準か
- 資金使途:設備投資、M&A、借入返済、運転資金など何に使うのか
- 割当先:第三者割当なら誰が大株主になるのか
- 将来利益への効果:希薄化を上回る事業成長が期待できる計画か
まとめ|増資は「株価が下がるイベント」と決めつけず中身を見る
増資とは資本金を増やすことで、企業にとって重要な資本政策の一つです。新株発行を利用すれば、銀行借入とは異なる自己資本として資金を調達できます。
一方、新株が増えることで既存株主の持株比率や1株当たり利益が希薄化する可能性があり、その懸念から株価が下落する場合があります。ただし、増資をすれば株価が必ず下がるわけではありません。調達資金による成長、財務改善、事業提携などが企業価値にどう影響するかによって市場の評価は変わります。
会社側では、増資方法の選択に加え、会社法に基づく募集事項の決定、株主総会・取締役会等の決議、払込み、資本金・資本準備金の計上、原則2週間以内の変更登記など、適切な手続きが必要です。
また、払込額のうち最大2分の1までを資本金に計上せず資本準備金とすることができるほか、剰余金を資本金に振り替える方法もあります。同じ「増資」という言葉でも、現金が増えるもの、株式数が増えるもの、単なる純資産項目の振替となるものがあるため、具体的な内容を区別することが重要です。
※本記事は2026年9月7日時点で確認できる法令・公的機関等の情報を基に、一般的な制度を解説したものです。会社の機関設計、定款、増資方法、株式の種類、発行条件等により必要な決議・書類・会計・税務処理は異なります。実際の増資手続きについては、司法書士、公認会計士、税理士、弁護士などの専門家や管轄法務局等への確認をご検討ください。また、本記事は特定の株式その他の金融商品の売買を推奨するものではありません。




